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東京地方裁判所 平成6年(ワ)12461号 判決 1995年12月18日

原告 株式会社かんそうしん

右代表者代表取締役 勝田秀二

右訴訟代理人弁護士 三好徹

同 吉田哲

同 竹内義則

同 星隆文

同 根本雄一

同 渡辺昇一

同 藤川浩一

被告 株式会社 トラスト

右代表者代表取締役 神成裕一

右訴訟代理人弁護士 笹岡峰夫

被告 佐々木真理子

主文

一  被告佐々木真理子は、原告に対し、別紙ゴルフ会員権目録記載のゴルフ会員権について、八千代観光株式会社に対し、被告佐々木真理子から原告への名義変更申請手続をせよ。

二  被告らは、原告に対し、各自金四七〇万〇二九二円及びこれに対する平成三年四月三〇日から支払済みまで年一八・二五パーセント(年三六五日計算)の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、被告らの負担とする。

四  この判決は、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

主文と同旨

第二事案の概要

本件は、原告が、被告佐々木真理子(以下「被告佐々木」という)に対して、被告株式会社トラスト(以下「被告トラスト」という)からゴルフ会員権を購入した代金を立替払したとして立替金の請求をするとともに、その担保として差し入れられた会員権の名義書換えを求め、被告トラストに対して、被告佐々木の債務を連帯保証したとして保証債務の履行を求めた事案である。

一  請求原因

1  原告と被告佐々木は、平成二年一月二九日、被告佐々木が販売店である被告トラストから購入する商品の購入代金から頭金を控除した未払残代金を、原告が被告佐々木に代わって被告トラストに立替払し、被告佐々木が原告に右未払残代金及び手数料の合計金を次のとおり分割返済する立替払契約(以下「本件立替払契約」という)を締結した(当事者間に争いがない)。

販売店 被告トラスト

購入商品 別紙ゴルフ会員権目録記載のゴルフ会員権(以下「本件会員権」という)

購入金額 金八二〇万円

頭金 金一〇〇万円

未払残代金 金七二〇万円

分割手数料 金一〇一万五二〇〇円

分割返済方法 平成二年二月から平成五年一月まで毎月二八日限り金二二万八二〇〇円宛分割払

特約1 被告佐々木において、分割払金の支払が一回でも遅れたとき、また本件立替払契約上の各条項に違反したときは、当然に前記分割返済に関する期限の利益を喪失し、前記分割支払金合計から既払分割払金合計額を控除した金員及びこれに対する期限の利益喪失の日の翌日から支払済みまで年一八・二五パーセント(年三六五日計算)の割合による遅延損害金を支払う。

特約2 被告佐々木は、原告に対し、本件立替払契約に基づく債務を担保するため、被告佐々木が本件立替払契約により販売店より取得する前記ゴルフ会員権を担保として差し入れるものとし、同会員権の被告佐々木への名義書換手続完了後に同会員権証書を原告に交付する。

被告佐々木が期限の利益を失ったときは、原告は事前の通知をすることなく担保会員権を適当と認められる方法・時期・評価額で第三者に売却または原告が取得することができる。

被告佐々木は、担保会員権の名義変更手続において、ゴルフ場会社に対して印鑑証明書の交付など必要な行為を行う。

2  原告は販売店である被告トラストに対し、本件立替払契約に基づき、原告が販売店に立替払すべき金員全額を支払った(当事者間に争いがない)。

3  被告佐々木は、平成三年四月二八日支払分以降の分割金の支払を遅滞している。

その結果、原告は、被告佐々木に対し、未払分割払残元金五〇二万〇四〇〇円及び期限の利益喪失日の翌取引日である平成三年四月三〇日から支払済みまで年一八・二五パーセント(年三六五日の日割計算)の割合による約定遅延損害金の請求権を取得した。

二  争点(被告トラスト関係)

1  被告トラストが、平成二年一月二九日、被告佐々木の原告に対する本件立替払契約に基づく債務を連帯保証したか否か。

2  被告トラストの営業部長である牛角広幸が被告トラストの代理人として、平成二年一月二九日、被告佐々木の原告に対する本件立替払契約に基づく債務を連帯保証したか否か。

3  右代理行為による連帯保証が認められないとして、商法四三条の適用の可否

4  右代理行為による連帯保証が認められないとして、表見代理の成否

三  被告佐々木に対する請求について

被告佐々木は、公示送達による適式の呼出しを受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面を提出しなかった。

甲1ないし3によると、請求原因事実を全て認めることができる。

第三争点に対する判断

一  被告トラストによる連帯保証契約の成否(争点1について)

立替委託契約書(甲1)の被告トラスト代表者作成部分については、社判及び代表者印の印影が、被告トラスト及び同代表者の印によるものであることには当事者間に争いがないが、証人石田建一郎の証言、被告トラスト代表者神成裕一の供述を総合すると、神成が右契約書を作成したものではなく、むしろ、当時、被告トラストの営業部長の地位にあった牛角広幸が作成したと認めるのが相当である。また、本件連帯保証契約の締結について、神成が承諾したと認めるに足る証拠もない。

二  牛角の代理権の内容(争点2、3について)

証人石田建一郎の証言、被告トラスト代表者神成裕一の供述によると、被告トラストの営業部長の地位にあった牛角は、包括的な授権のもと、ゴルフ会員権の売買を行っていたことが認められる。

しかし、牛角に対する包括的授権に、本件のように、ゴルフ会員権の購入者の金融会社に対する立替払金債務について連帯保証契約を締結することまでの授権が含まれていたと認めるに足る証拠はなく、本件の連帯保証契約を神成が個別的に承諾したと認めるに足る証拠もない。

また、右のような連帯保証契約は、通常、ゴルフ会員権の売買に付随する業務ともいえず、商法四三条の適用もないと解するべきである。

三  表見代理の成否(争点4について)

証人石田建一郎の証言、被告トラスト代表者神成裕一の供述、甲1ないし3によると、次の事実を認めることができる。

被告トラストの営業部長である牛角には、ゴルフ会員権の売買についての包括的な授権を与えられていた(基本代理権の授与)。

本件取引においても、もっぱら牛角が、営業部長の肩書において、原告の担当者の石田と取引の交渉を行っていた。

原告は、被告佐々木から、被告トラストを通じて購入するゴルフ会員権の代金の立替委託契約の申込みを受けたが、右会員権の名義書換が停止となる予定であったため(右停止は平成四年四月一日解除された。)、通常であれば立替委託契約に応じないところ、牛角からの要請もあって、被告トラストが連帯保証をすることを条件に右契約を締結することとした。原告の担当者の石田が被告トラストに赴き、立替委託契約書(甲1)を作成したが、甲1の被告トラスト代表者作成部分については、社判、代表者印の印影は真正なものであり、その際、牛角から印鑑証明書(甲3)の交付を受けた。

以上の事実を総合すると、原告において、牛角が被告トラストの授権を得て本件連帯保証契約を締結したと信じたこと及び信じたことについて正当な理由があったことを認めることができ、表見代理の成立を認めるのが相当である(民法一一〇条)。

被告トラストは、原告の担当者が、右の授権の有無を被告トラスト代表者に確認しておらず(証人石田)、原告において、牛角に連帯保証契約締結の代理権があると信じたことに過失があったと主張するが、前記事情に照らすと、そのことだけで原告に過失があったとはいえない。

四  結論

右の事実によれば、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山田陽三)

<以下省略>

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